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2010/01/26

オランダ人のハイチへのまなざしに想う

 地震で住まいも街も瓦礫と化し、何万人もの人命が失われたハイチ。
 オランダのニュースは、以後、ほとんど毎日のようにその後の現地の事情を時間をかけて伝えている。
 
 早速、救済チームが現地に飛んだ。オランダには、政府機関のほか、フットワークが軽い民間団体も多い。
 養子斡旋のNPOは、現地の孤児をオランダで養子にしたいと希望している人たちのもとに連れてこれるように、早々政府に資金援助の申請をし、すぐに実施が決まった。地震からわずか1週間ほどのことだ。

 先週21日は、ハイチ救済アクションデー。
 前日、全国紙には、半面―1面を割いて、大きな広告が出、当日は、朝の6時から夜11時半まで、テレビやラジオで、募金回収のボランティアイベントが続いた。
 テレビのスタジオは、ちょうど大学の階段教室のように設定され、無料電話を受信する有名人が居並ぶ中、視聴者の関心を引くチャリティーショーが続いた。

 無料電話を受け付けているのは、日ごろからよく顔の知られた有名人たち。大半は、タレント、コメディアン、歌手、スポーツ選手らだが、その中に、首相、副首相、野党の政治家、日ごろ反イスラムで排斥的な発言を繰り返している「極右」系の野党党首も、ニコニコしながら、募金の寄付を受け付けている。バルセロナの郊外に豪邸を持つプロのサッカー選手も、かかってくる電話に、休みなく応対している。女王の妹君も、皆と一緒に、オレンジ色のT シャツを着て電話に応えている。

 有名人も庶民も、みんな平等な人間だ、というオランダ人の得意のイメージが、今回もまた強烈に視聴者に印象付けられる。

 電話寄付だけでなく、会場には、学校や職場で募金を集めてきた人たちも招かれていた。小学校2年生くらいの女の子が、学校で集めたお金を持ってきたという。3765ユーロ22セントと、50万円余りのお金の額を、セントまできちんと発表させることの大切さ。

 オランダには数少ないミシェランガイド推薦・スター(星印)つきレストランでは、シェフらが、レストラン前の路上に出て、自家製のスナックを通行人に振舞いながら、募金アクションに参加しているシーンが伝えられる。宣伝効果といえば確かにそうだが、ミシェラン・スターがつくほどのレストランには、わざわざこんな宣伝をするまでもないはずだ。企業も一般市民と同じように、人道主義のアクションに参加することに意義がある。

 『オランダは一つになって、海の向こうで今天災に苦しんでいる人たちのために募金をしている』というメッセージが、こうして、国を挙げて丸一日繰り返された。

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 同日昼過ぎ、エイントホーベンの空港に、数10人のハイチの孤児らが、養子斡旋団体の職員やスチュワーデスに手をひかれて到着した。ニュースを伝えるテレビの画面では、まず、ハイチで、現地にいるオランダ軍の兵士らの大きな腕に抱かれて飛行機に搭乗している孤児たちの様子が伝えられた。わずか10日ほど前に、突如として、親や兄弟を失った子供たちだ。どんなに不安な昼夜を過ごしたことだろう。迷彩服を着た、たくましいオランダ人兵士の腕の中で、子どもたちの表情が、安堵で和らいでいるのがよく見えた。熱帯のカリブ海から、真冬の北国オランダに到着した子どもたちは、防寒のためか、大きな毛布をまとい、その毛布を引きずりながら、空港の建物までを歩いていた。黒い肌の子どもたちが、白い肌のオランダ人の手をしっかり握りしめ、信頼しきっている表情に、画面を見ているだけの私すらも、涙が溢れるのをこらえきれなかった。

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 オランダでは、外国人の孤児をよく養子にする。70年ごろから頻繁に行われていることで、スーパーマーケットでも、路上でも、肌の色の違う親子を目にすることは少しも珍しいことではない。オランダで育った子供が、やはり、自分の本当の親に会いたい、生まれた国を見てみたい、と思うこともあるのだろう。それをテーマにしたテレビ番組さえある。

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 肌の色が違う子どもでも、言葉が分からなかったり障害がある子どもでも、養子にして引き受ける親がこれだけいる、というのは、ただ、オランダ人の中に、奇特な心の持ち主がいるからだ、というだけの理由ではないと思う。オランダという国が、肌の色、言葉の違い、障害の有無にかかわらず、どの子どもも、みな同じように発達する権利を認めている国であることが、子どもを育てたいが恵まれないというオランダ人たちに、安心して、よその国の子供を養子にできる環境を与えている。

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 さて、果たして、日本は、いったい外国の肌も言葉も習慣も違う子どもたちをどれだけ安心して養子にできる国か???

 日本人は、自分の国が、本当に、世界の平和に積極的に努力している国だ、と誇れるのかどうか、、、貧困世帯の子どもたちの教育、在留外国人の子どもたちの教育の権利、在日韓国人をいまだに差別し続けるこの国、そして、同和問題。日本人の子どもさえ、いじめ、自殺、不登校と、やむことない不幸のサインが発し続けられ、しかもなお、3人に一人が「孤独を感じている」と答える国。入試競争で落ちこぼれていく子どもたちには、やり直す機会さえない。子どもを抱える親たちは、収入の多くを教育に投資し、しかもなお老後の安心さえ得られない国。

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 外国人にやさしい社会は、自分の国の人々にもやさしい。外国人にやさしくない社会は、実は、その社会の中の人々にとっても息苦しい社会だ。