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2009/04/20

小国の方がいいこともある???

 かつてサッカー選手として世界に名声をはせたオランダ人ヨハン・クラウフ。
 彼は、選手をやめてからもバルセロナのサッカーチームの監督をし、また、オランダでも、サッカーの重要な試合があるごとに解説者として登場する、いわば「サッカーの神様」のような存在となった。日本でもサッカーファンなら一度は聞いたことがある名前だろう。実際、現役中のクラウフのプレーは、今ビデオで見ても、華やかで美しい。
 
 ただ、天は人に二物を与えない、というか、彼は、オランダ語の方はあまり得意ではなかったらしい。サッカーの試合の解説中にポンポン飛び出す、文法も論理もめちゃくちゃな彼のものの言いまわしは、かえって、彼が何を言おうとしているかがよく分かるだけに、逆に「的を得た表現」しかも「面白おかしい表現」として名言集が作られるほどとなった。

 そんな中でもとくに有名なのは「どんな難点にも必ず利点がある」というもの。
 まあ、クラウフが言いたかったのは、「どんなに苦しく困難な状況にあっても見方を変えればそれをよい方向に動かす力が引き出せるものだ」というようなことだったのだろう。もちろん、もとはサッカーの試合の解説だから、プレー中の状況を言っている。だが、あまりに物事の核心をついたこの表現に、オランダ人はすっかり喜んで、流行語に仕立て上げた。流行語というより、もう、オランダ人の中には知らない人はいない、というほどの哲学的(?)名言となった。
 たぶん、大きく譲って「どんなことにも難点と同時に利点がある」と言えば、論理的には受け入れられる表現になったのだろうが、それをすっ飛ばして上のような表現にしたことが、かえって人々に訴え、大爆笑と共に、オランダ人の多くが、何かにつけてこの表現を口にするようになった。

 それにしても、オランダ人にはもってこい、オランダ人が喜んで使うはずだ、とつくづく思う。

 オランダ人らは、その昔、ぬかるみの湿地帯、海とも陸とも思えない河口デルタ地帯を堤防で囲い風車で干拓して、人が住み、生業をして生きていける土地を作った。よほど食えない人々がこの土地に集まってきていたのだな、と思う。もともと、移民の国なのだ。もともと、既存の体制的な権力や権威を嫌う人々がいる。そういう場所に、どこよりも先駆けて「市民」の国ができた。

 つい先ごろ、ある雑誌の中で、またオランダ人の面白い言葉を発見した。

「小さな国の利点は、大きな外国を持っているということだ (The advantage of a small nation is that she has a great foreign place)」

 これなど、小国の負け惜しみにしてはあまりに極端なので、つい気の毒になり、同時に、スカッとした気分になる。ヨハン・クラウフなら、真剣な顔をして大きくうなづきそうだ。
 この言葉は、かつて、外国人から、オランダにはなぜ外交のために二人の大臣を置いているのか、という質問に応えて、ヨセフ・ルンスという元外務大臣で、NATOの事務総長にもなったオランダ人政治家が応えていったものだそうだ。

 外交のための二人の大臣とは、ひとりは、外務大臣のこと、もう一人は開発協力大臣のことだろう。

 オランダは、世界を向いている。オランダはいつも世界を向いてきた。
 現に、オランダが地球の表面積に占めている割合は、0.008%だが、経済的な地位は世界で第16位なのだそうだ。開発途上国への協力は、世界でも常に1,2位を争う。こういう外交を、大国に依存してではなく、小さくとも、独立して、多方位外交でやってきたというのだから見事だ。小国オランダの国民が自慢したい気持ちもわかる。確かに、連合政権で、コーポラティズムのオランダは、そのために、政策が常に左右に揺れ続ける、見方を変えれば典型的な「日和見政治」と言えなくもないが、少なくとも、自分たちの力で、自分らの国を守っていこうという姿勢だけは模範にしたい。

 さて、日本はどうか。
 アメリカ経済が日ごとに傾いていく中、日本ももうアメリカには頼っていられそうもない。アメリカに依存しない日本は果たして「大国」なのか「小国」なのか。

 もしも、ヨセフ・ルンスの言葉に従うならば、「小国」である方が、利点があるようだ。

 パラドックスとはこういうことを言う。パラドックスを見極めるには、相対観が必要だ。物事に対して、相対感を持ち、パラドックスを読み取ることができれば、おのずと未来への道は開かれていく。「小国」と言ったって、日本は知恵のある人材を何十万と抱えた人的資源の質の高い国だ。みんなが力を合わせ譲り合って知恵をしぼりだせば、日本人にしかできない未来を拓く方法が必ず見つかると思う。

 日本は、自らを過大評価する人為的に作られた「大国主義」や「大国依存」を捨てて、そろそろ、虚心坦懐に「小国」の利点を無駄なく最大限に利用していく時代に来ているのではないか??? 日本を守るのは、日本人しかいない。そのためには、みんなが、忌憚なく発言でき、マイノリティの声が聞こえる議会制民主主義の社会がまず何よりも必要だ。



 少なくとも、小国の人間は、偉そうな態度をとならないから外国でも付き合いやすい。