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2008/12/14

花を贈る

 贈り物が好きなのは日本人だ。
 徳川時代、参勤交代のたびに地方の産物が将軍に送られた日本では、各地に、研ぎ澄まされた郷土ならではの職人芸、特産物が発達した。これは、本当に、よその国に行ってもなかなか見られないもので、洗練された工芸品の数、味覚の真髄を追求した特産物の数々、その種類の多さと質の高さは他に比べることができないほど突出していると思う。
 それだけに、今でも日本では、人に贈り物をしようとして、モノに事欠くことがない。贈って恥ずかしくない質の高いものが本当に豊富だからだ。

 特産物というほどの洗練されたものがないヨーロッパに住んでいると、ちょっとした訪問の手土産には、結局のところ、ワインとかチョコレートとかに落ち着くことになる。

 それに加えてオランダでは生花のブーケが手頃なのが嬉しい。
 花は、もらった時の華やかさが格別だし、1,2週間たてば、どうしても枯れて後ぐさりが残らないのがいい。

 花は枯れてしまうのに、花をもらった思い出の方は鮮やかに懐かしく残る。

 息子が高校1年生の時、中学までを過ごした田舎の町から、中学時代の同級生が4,5人泊まりがけで遊びに来たことがあった。どの子も、以前、よくうちに遊びに来ていたやんちゃ坊主たちだ。放課後にうちに来ると、おなかをすかした子供たちによくホットドッグやホットケーキなどを作って食べさせてやっていた。引っ越した私たちを遠くまでわざわざ訪ねて来てくれた子供たちは、ちょっと成長して背も高くなり骨太くたくましくなって声変わりなんかしていた。

 到着の日、駅まで迎えに行って、早速お昼ごはんを用意し、ワイワイと騒がしく過ごした。夜は、息子の部屋に押し合いへしあいマットレスを引いて久しぶりに夜中までおしゃべりとゲームに興じていたようだ。

 翌日、遅くまで寝どこにいた子供たちは、眠たそうな目をして海岸に出て、何時間も凧をあげて遊んできた。そうして、昼過ぎに帰ってきたかと思うと、その中の子の一人が代表して、「これ、お母さんにお礼です」と、大きな花束を私に手渡してくれた。

 高校1年生の男の子5人と、大きな花束、という組み合わせは、全然思いもかけていなかっただけに、とても嬉しかった。 16歳にもなると、なんてダンディなことをするんだろう、と心が躍った。

 世界一の花卉栽培と輸出量を誇るオランダ。
 日本の洗練された伝統工芸と贈り物の文化もいいが、オランダの花の文化もなかなかいい。

 昨夜も、成長して大学生になった息子のガールフレンドが、先日私が日本から持って帰ったお土産のブローチのお礼に、と一叢の花束を抱えてきて、いっしょに夕食を食べていった。